渋川難波、
魔神の押し引き
2023年7月3日 予選2ndステージB卓 文・東川亮
Mトーナメント予選2ndステージB卓は、招待選手対決のA卓と対象的に、全員がMリーガーという顔ぶれとなった。
近藤誠一(セガサミーフェニックス)、瑞原明奈(U-NEXT Pirates)、渋川難波(KADOKAWAサクラナイツ)、萩原聖人(TEAM雷電)、さながらMリーグ本編のようではあるが、2名勝ち上がりのトーナメントであれば、もちろん戦い方は同じにはならない。
順位点の大きいMリーグルールでの2戦勝負において、初戦トップに向けた押し引きが特に重要となるのは、ここまでMトーナメントをご覧になられた方なら分かるのではないだろうか。
1回戦
南2局、渋川の手牌。自身はをポンしての1シャンテン、ドラが2枚あって高打点も期待できそうだが、下家の近藤がポンポンポンと3つ仕掛けている状況で、マンズが2枚余っている。どちらも切るには非常に厳しいが、さてどうするか。
渋川はドラまたぎのを押した。
もちろん近藤の仕掛けが一色手濃厚なのは承知の上。しかし近藤は渋川が切ったを鳴いておらず、をポンして打。この段階で近藤のマンズがだったことが分かり、そこから渋川は、近藤がトイトイも狙って手を進める途中だったのではないかと読んだのだと言う。もちろんロンと言われる可能性はあるが、満貫クラスが出てくる可能性はあまり高くはない。
実際にはトイトイではなかったが、手の途中、というのは渋川の読み通り。
を鳴き、打でテンパイ。
もし早々にが出ていれば近藤も鳴いて裸単騎のテンパイをとっていたかもしれないが、親が2つ仕掛けた後となれば話は別。この辺りも渋川の切り順が光る。
近藤をオリに回らせ、フィニッシュは1枚しかないをツモって4000オール、大きな加点に成功。
見た目の迫力に惑わされずに切るべき牌をしっかりと切った、渋川の押し引きが光る一局となった。
この局では、瑞原が自身の判断を振り返る場面があった。
瑞原には早い段階でドラ1のカン待ちテンパイが入ったのだが、三色への変化なども見てこのテンパイを外した。しかしが自身の目から3枚見えていたことから、そのままリーチをかけてもよかったのではないかと思っていたのだという。
瑞原はMトーナメントを戦うにあたって「ゴリラ麻雀」というキーワードを掲げており、それは多少強引でもアグレッシブに攻めていくことを指していたと思われるが、その最たるものと言える愚形待ちリーチを選択できなかったことを、試合後に悔いていた。
局は進み、南4局1本場。
現状は渋川と瑞原が同点となっている。ここで渋川は1巡目にポンから発進。の後付け、あるいはうまくいけばチャンタという進行になりそうだが、点差がわずかで相手に役牌を絞る余裕がないときは、こういう仕掛けが効果的になることが多い。
続いてチー。まだチャンタの可能性が残る仕掛けで、手の内が看破される要素は少ない。
狙い通りを鳴けて、最後はでフィニッシュ、渋川が狙い通りの手牌進行で、俄然有利になる初戦のトップを獲得した。
手牌進行と最終形をイメージした上での、最初のポンが秀逸だった。
2回戦
2回戦制のトーナメントだと、初戦にトップを取ることでさまざまな選択肢を持つことができる。
2回戦東1局、親の渋川はピンフ赤ドラの待ちをダマテンに構え、瑞原から5800をアガった。
初戦、あるいは普段のMリーグであればかなりリーチ寄りの選択になりそうだが、初戦にトップをとってリードを作ったことで、より確実に加点していくことを選べるようになっているのは大きい。
さらに次局はあまりに早いチートイツドラドラテンパイを自分でツモ。
あとは大きな放銃をしないように打てばよく、この段階で渋川が勝ち上がりの一席を確保したと言ってもいいような状況になった。
こうなると、焦点はもう一つの椅子を誰が確保するのかになるが、そこに名乗りを挙げたのが萩原。
東1局2本場、近藤とのリーチ対決を制し、リーチツモタンヤオイーペーコードラドラ赤の3000-6000は3200-6200をアガって、まずは大きく抜け出す。
東2局3本場、そこそこまとまった2シャンテンの形で引いた孤立のを、いったんはツモ切ろうとするが手に留めて切り。
は三色の種であり、役ありテンパイに取れるパターンを増やした形だ。
チーから動き、形式テンパイは拒否してアガリにこだわった結果、最後の最後でカン待ちテンパイ。
は直前に親の瑞原が切っている。
渋川から出て2000は2900のアガリ。
打点は小さいが、萩原としては目下のライバル瑞原の親を直撃で落とせた意味が大きい。
萩原は南2局の瑞原の親番でもリードを盾にしながらアグレッシブに仕掛け、
自身のアガリで局消化に成功し、そのまま逃げきって2回戦のトップを獲得、渋川と共に次のステージへの勝ち上がりを決めた。