選ぶべきは
普通ではなく最善手
鈴木たろうの選択を見よ
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2022年1月10日
麻雀において、セオリーと呼ばれるものはいくつもある。ただ、大事なのはそれを言葉で覚えることではなく、なぜそうなのかをしっかりと考え、適した使い方をしていくことではないだろうか。大和証券Mリーグで活躍するMリーガーたちはときとして、打牌を通じてそんなことを教えてくれる。
第1試合
東家:伊達朱里紗(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
南家:鈴木たろう(赤坂ドリブンズ)
西家:内川幸太郎(KADOKAWAサクラナイツ)
北家:松ヶ瀬隆弥(EX風林火山)
東1局、たろうがいきなり面白い一打を見せる。ドラが暗刻のチャンス手をもらうと、を引いてテンパイ。を切っての待ちリャンメン待ちリーチが普通かと思われたが、たろうはを切ってのシャンポン待ちでリーチをかけた。
は場に3枚切られており、一方では場にゼロ。それでも、単純な見た目枚数の比較では5対4での方が多い。実際に、この形なら枚数の多い方に受ける人が多そうだ。しかし、たろうはその一歩向こうを見る。「シャンポン待ちよりリャンメン待ちの方が、枚数が多くてアガりやすい」という考えが、今の場にそのまま当てはまるのか。
上家の伊達が序盤から中張牌を切り出し、国士無双の模様。となれば、は1枚か2枚は持たれていそう。また、たろうはと切っていてが中スジであり、いずれ出るパターンもあるのではないか、と考えたかもしれない。
直後の内川、を引いて1シャンテンに。リャンメン3メンチャンの形となるため、ここでを打つことも考えられた。
だが、内川の選択は現物切り。内川は、カン待ちを警戒していたという。実際に、からを先に切って切りリーチでの待ちも、十分あり得る形だ。また、内川の手が現状ドラもなく手役もあってピンフのみと、打点の魅力もあまりない手だったのが、無理をしない理由にもなったかもしれない。
この局は内川がを止めきってテンパイを組み、たろうからピンフのみ1000の出アガリ。
開かれた手を見たたろうも、内川にうまく対応されたことに気付いただろう。
ドラ3の手を蹴られたたろうだったが、東3局でも再び手の内でドラが暗刻になり、テンパイ。今度はタンヤオがあるのでカン受けのダマテンに構える。
さらにを引いて空切り。第1打(空切り)、第2打ツモ切りと河が派手になっており、さらにカン受けターツを払ったように見せることで、上の三色やホンイツなどの手役を相手に意識させる効果を狙ったか。
これに伊達が放銃、たろうが8000の加点でトップ目に立つ。伊達いわく、「あれは無理」。たしかに、巡目的にも打点的にもかなり厳しい放銃に見えた。
この後、南1局では親の伊達がリーチツモタンヤオ赤の4000オールツモアガリ、4番手から一気にトップに浮上するアガリを決める。
次局はたろうがリーチツモピンフ赤赤の2000-4000は2100-4100をツモり、伊達を再逆転。二人が互いに大物手を決める展開は、南2局にクライマックスを迎える。
先制は伊達、愚形2つ残りの1シャンテンからカンを引き入れてテンパイ。すでに巡目は7巡目、好形変化は引き以外だと2手かかるということで、切りでのペン待ち即リーチに打って出た。解説の土田浩翔によると、内川が第1打、たろうがツモ切りでピンズの上をあまり持っていなさそう、つまり待ちが十分勝負になると読んだのではないかとのこと。実際、山には3枚残っていた。
このリーチは河が強い、自身の手はドラ含みの1シャンテンということで、たろうはリーチに対してと無スジを押していく。そしてテンパイ、カン待ちでも迷わずリーチをかけた。は伊達がリーチ後にツモ切ったが他2人が合わせておらず、まだ山にいることも期待できそうだ。
決着はすぐについた。伊達が一発でを掴み、たろうに放銃。裏ドラ1枚で12000は。この試合の決定打となった。
南4局3本場。親の松ヶ瀬は、2番手でこの局を迎えた。
松ヶ瀬は7巡目にカン待ちテンパイを入れるが、これをヤミテンとした。親のリーチは相手に対して脅威とはなるが、現状2番手で下の2人との差はそれほど大きくはないことから、ある程度の押し返しが来ることが想定される。そうなったとき、待ちの悪いリーチのみの手ではあまりにも分が悪い。
しかし次巡、なんとをツモ。このとき松ヶ瀬がアガリを宣言するまで、少しの間があった。
赤でアガリ、1000は1300オール。内川、伊達との差が4200開いた。これによって内川の満貫出アガリでの逆転条件が消えた。松ヶ瀬は望外のツモの瞬間、この差を考えていたとのこと。ちなみに、もしツモったのが赤でなければアガらずに北を切り、タンヤオなどを絡めた好形・高打点の手組みに向かうつもりだったそうだ。
次局、松ヶ瀬はたろうから打たれたを2枚とも鳴かなかった。鳴けばアガリも十分あり得そうな形ではあったが、役牌を切り出していくことで鳴かれたり押し返す材料を与えたりして、他2人のアガリを誘発するケースもある。サクラナイツの内川が3番手、麻雀格闘倶楽部の伊達が4番手ということを考えると、ここで無理やりトップを狙って着落ちのリスクを負うより、このまま2番手で試合を終わらせる方が良い、という考え。レギュラーシーズンももうすぐ全日程の3分の2を消化する。このような、相手チームとの順位を考えた駆け引きは、今後徐々に増えていくことが予想される。
最後はたろうが、仕掛けてのタンヤオ赤をツモアガって、主役としてこの試合を終わらせた。
試合後、たろうは東1局のシャンポン待ちリーチについて「普通の選択ではないように思えたが、なぜなのか」と問われ、こう返した。
「じゃあ逆に聞きますけど、何でリャンメンが普通なんですか?」
なんとも鈴木たろうらしい受け答えだな、と感じた。これから終盤戦に差し掛かるMリーグにおいて、たろうは今後もますます興味深い「ゼウスの選択」を見せてくれそうだ。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。