全ては軍師・勝又健志の
思惑のままに
文・東川亮【金曜担当ライター】2023年11月17日
「軍師」という言葉を辞書で引くと、このように書いてある。
軍師(ぐん-し)
1:主将に賊して、軍機をつかさどり謀略をめぐらす人。
2:(比喩的に)匠に策略・手段をめぐらす人。
出典:岩波書店「広辞苑」第七版
そこに「麻雀」とついたとき、Mリーグファンが思い浮かべるのがこの男。
EX風林火山・勝又健志である。
大和証券Mリーグ、11月17日の第1試合は、まさに戦国時代の軍師のような、変わりゆく戦局を見据えたゲームメークが光った一戦となった。
第1試合
東家:内川幸太郎(KADOKAWAサクラナイツ)
南家:白鳥翔(渋谷ABEMAS)
西家:東城りお(セガサミーフェニックス)
北家:勝又健志 (EX風林火山)
東1局。
勝又は立て続けに切られたを2枚とも鳴かなかった。まだメンツが1つもなく、鳴いたらこの手はだいたい1000点か2000点程度の打点にしかならない。相手の攻撃に対する守りも脆弱になる。
そこから手が伸びなければ守備に回ればいいし、伸びるなら安全牌を持ちながらの進行と、攻めにも守りにもシフトしていきやすくなる。ソーズがつながり、ピンズでドラメンツが完成するなら、この局の方針は攻めだ。
親の内川から先制リーチがかかるが、を使って安全を確保しつつ形はキープ。
そして現物を切りながら、絶好の3メンチャンで追いついた。
内川がタンヤオと三色の両方がつく最高目のを一発でつかみ、リーチ一発タンヤオピンフ三色の12000。役牌を鳴いて軽々にアガリを取りにいっていたらたどり着けなかった、重い一撃がスタートから決まった。
次に面白かったのは東3局2本場。
勝又は8巡目にカンチャン待ちテンパイとなる。このままリーチ、もしくはダマテン、タンヤオ変化を狙ってのトイツ落としなども考えられたが、
選んだのはソーズのカンチャンターツ外し。ソーズがあまり場に切れていないことから、ソーズ以外でのテンパイを目指しつつ手を組みながら、安全度も確保する。
内川からリーチを受けた後、シャンポン待ちのテンパイが取れる形になるも、トイツのを切ってテンパイは取らず。さすがに形も打点も不満なため、さらなる変化、十分形での反撃を狙う。
これも、をトイツで持ち続けていたことが大きい。無理攻めをせず、字牌を守備駒として残しながらアガリの道筋を探る柔軟なやり方は、東1局に近いものを感じる。
を引いて変則3メンチャンテンパイとなるも、ここはアガリ率を高めるためにダマテンを選択。
リーチに対して中スジとなったを白鳥から捉え、2600の出アガリ。勝又が冷静なゲーム回しで、リードを保ったまま局を進めていく。
そして、アガリ以外でも勝又の興味深い選択があった。
南3局1本場、2軒リーチに挟まれた最終盤で、東城の切ったに勝又が止まった。
わずかな時間で思考を巡らし、
リャンメンでチー。
このとき勝又は、打ち出す牌が安全に切れるということで、テンパイを狙うことを考えたのだという。ただ、このチーでハイテイは内川に回ることになった。可能性は低いが内川がツモ、もしくは東城に放銃という決着もある。
しかし、内川がツモればハネ満までなら自分がトップ目でオーラスを迎え、東城に放銃した場合はいったんは逆転されてしまうかもしれないが局は進まず、3着目の内川は大きく後退。
いずれのケースにおいても、勝又が2着以上で試合を終える可能性は相当高まる。
ものすごく都合良く物事が進めば、テンパイして内川からホウテイロン、という決着だってなくはない。
最後は勝又の1人ノーテンで流局。鳴かなければたどり着いたであろう結末を覆すとはいかなかったが、一つ軍師らしい策略を見せた一局だった。
次局はの後付けでしっかりとアガりきって、溜まった供託を回収して前局の失点を挽回。東城の満貫ツモ圏外までリードを広げる。
そしてオーラスは安全度の高い字牌のトイツを抱え、守備力と打点を両立させたソーズのホンイツ仕掛けでさらなる加点を狙う。