永遠に続くかのような
オーラスの向こうへ
原佑典の指先が捉えた
ファイナルへのチケット
【決勝卓】担当記者:東川亮 2021年10月23日(土)
麻雀最強戦2021の実況を務める日吉辰哉は「全日本プロ選手権とアマチュア最強戦が麻雀最強戦の華」と語った。他の大会はいずれも実行委員会の選出を受けて出場することになるのだが、この2大会だけは「勝てば出られる」大会。情報発信も、キャラクターも、自己プロデュースも、極論で言うなら強さすらも関係ない。勝てばいい、それだけなのだ。
今年の全日本プロ選手権には、延べ900人超の麻雀プロが参戦したという。決勝まで勝ち続けた4名は、自らの道を切り開くため、そしてただ目の前の試合に勝つために、己の全てを投じる。
小川稜太。
予選A卓では東1局の親番で大きく点数を稼ぐと、その後は守備意識高く立ち回ってトップ通過、今期の麻雀最強戦で最低となる支持率1.7パーセントの低評価を覆して決勝進出を果たした。尊敬する最強位・多井隆晴に挑戦状を叩きつけるべく、ファイナル進出を目指す。
小川の猛攻を受けながらも6000オール、4000-8000と強烈なツモアガリ2発で他2人を突き放し、予選通過を決めた。全日本プロ選手権は3度目の挑戦、3度目の正直を決めて、愛する妻に最高の報告をしたい。
小宮悠。
勝ち抜けに向けてデットヒートを繰り広げる中、決意のリーチ選択を実らせて原をかわしてトップ通過を決めた。昨年はこの舞台から井上絵美子プロが勝ち上がり、ファイナル決勝まで進出している。2年連続、女性プロの優勝なるか。
原佑典。
B卓では苦戦を強いられるも、清老頭四暗刻という前代未聞のダブル役満テンパイを入れ、出アガリ32000で大逆転通過を決めた。だが、肝心なのは決勝の戦い。役満のイメージが鮮烈に残る中で、もう一つ大事な結果を手にしたい。
道中、この試合をリードしたのは、間違いなく古本だった。東1局1本場ではリーチ一発ツモドラ裏の満貫を決めてリードを作ると、
東3局1本場では小川、そして親の小宮の2軒リーチをダマテンでかわしきる。
東4局2本場では待ちのシャンポンリーチで小宮からを打ち取り、5200は5800。着実に加点をし、優位な状況で南場を迎えた。
だが、このまま終わる3者ではない。南1局、勝利のためには打点を作りたい小川が三色決め打ちでを引っ張り、構想通りに高打点の手を組んでいく。ただ、急所のは古本に固められていた。
一方、負けられないのはこちらも同じ。出アガリなどほぼ考えていなかったであろう、小宮のペンドラ待ちリーチ。これを自らツモって満貫を決め、古本に追いすがる。小川は親を落とされ、厳しい状況になった。
さらに小宮は、南2局・古本の親番でリーチツモピンフ三色の満貫を決め、古本に親かぶりをさせることに成功する。789の三色は、予選B卓で勝利の決め手となった一撃をほうふつとさせる。
思えば小宮はこの試合で、何度か高打点に決め打つような打牌選択をしていた。東1局の第1打切りは一色手を見たのだろうし、次局の第1打でカン受けを払う打も、チャンタやホンイツ、ドラを絡めるなどして自身の手を高く仕上げることを狙ったものだと思われる。おそらくこれが、彼女がトップ取りのために用意してきた作戦なのだろう。
そんな小宮が親番となった南3局、古本との全面対決の場面が訪れる。小宮は2巡目の1シャンテンを取らずトイツ落とし、4巡目にはドラ受けとイーペーコーの両方をにらむ切り。この手をリーチのみでは終わらせないという意志を感じる。
だが先制は古本、のシャンポン待ちでリーチをぶつけていく。ドラドラで打点十分、アガれば2番手の小宮に親かぶりをさせて突き放した上に親も落とせる、値千金のアガリとなる。
親の小宮とて、このリーチにはオリていられない。いったん単騎待ちでテンパイを入れると、ドラのカン待ちで勝負のリーチをかけた。この時点で、お互いの待ちは共通するが山に1枚切り。それが山のどこに積まれているかはただの偶然でしかないが、その結果は互いの運命を劇的なまでに左右する。
勝ったのは古本、リーチツモドラ3の満貫。力強く叩きつけられたその牌を見て、小宮は何を思ったか。
これで古本が2番手に23300点差をつけてのトップで、オーラスを迎えた。小川、小宮は1局での逆転のために三倍満や役満クラスの手が必要になるため、事実上、この試合は古本と原の一騎打ちとなった。
ここまで1時間以上にわたって繰り広げられてきた激闘。だが、決着まではさらに1時間の時間を要することになる。
南4局、アガれば勝ちの古本だがどうにも手がまとまらない。そうこうしているうちに原がリーチ。しかしアガリは生まれず原の一人テンパイで流局。
この展開は、ほんの少しだけ小宮に利する。小宮の条件は、倍満ツモでもわずかに打点が足りない。もちろん役満など一撃必殺を狙ってはいくのだが、現実的には原が連荘して本場が積み重なると共に供託リーチ棒もたまっていけば、あるラインで倍満ツモが届くようになるのだ。また、古本とのテンパイノーテンで点差を詰められれば、条件はさらに軽くなる。小宮としては、原の連荘は歓迎すべきものとなっているのだ。
南4局1本場は小宮が一縷の望みをかけて四暗刻へ向かうが、原の先制リーチによって撤退。暗槓のタイミングもあったが、見送って4枚目のをツモ切りしたのは、奇跡のアガリよりも安パイを消費しての放銃リスクを重く見た形だろうか。小宮もギリギリの我慢を強いられている。
前局に続き、原が一人テンパイで連荘。この時間はどこまで続くのか、続けられるのか。
南4局2本場、この局も原の手牌がまとまりそうな形。