曲げても、他家からはしか条件を満たさない。
すると、である。
なんと優のホウテイ打牌は、だった。
ピンフホウテイイーペーコーで、3900。
亜樹のトップ終了の未来は確実に存在していたのである。
思えば11月29日(火)の試合でも、亜樹はトップを取ったもののオーラスの立ち回りについてはやや後悔があった。
下家の仕掛けにほぼ待ち一点の差し込みを選ばなかったことだ。
これが長引いて親の連荘を生んでしまい、あわやまくられる展開を残してしまったのである。
ポーカーのトーナメント、最後の二人になったヘッズアップという状況は、
麻雀のオーラスの勝負によく似ている。
ヘッズアップも普段のテーブルと違った戦略が求められるために、それに特化した訓練が必要だったりする。
勝又が指摘したように、亜樹はオーラスもっとアグレッシブな打牌をしてもよかった。
ただ、優のダマテンや本田の欲しいスジに対する読みはもちろん的確であり、
続行が期待できる状況であることを意識して、亜樹が15巡目にオリること自体はあり得るかもしれない。
本人もあとで反省していたように、長考しての切りと、最終打牌の安全ながミスではあった。
たとえば赤坂ドリブンズ・園田賢やU-NEXT Pirates・瑞原明奈が見せたことのある、
終盤に“チーして何か切る”というプレイ。
これだけでも他家目線ではテンパイに向かっているように映る。
亜樹はノーテンを選んでも、それを悟られないようにしなければならない。
ポーカーで相手のミスにつけ込む戦略をエクスプロイトというが、
ヘッズアップではそれが重要になる。
本田は正に、亜樹のミスを利用したエクスプロイト戦略のノーテン宣言で、本当に見事という他はない。
それにしても──、男子三日会わざれば、とはいうが、2年目の本田の活躍は目覚ましい限りだ。
亜樹は普段の安定志向、抜群の守備意識がオーラスのつばぜり合いでは枷になることがある。
フラットな局回しを得意としながら、オーラスに特化した戦略では本田に軍配が上がった格好だ。
「本田さんの高いヤミテンに打ちたくなくて──」
「いいんだよ!打てば!」
「そうだね──、打てば打ったで、次局2着狙いに切り替えればいいんだよね」
亜樹と勝又は、そんな風にオーラスを振り返っていた。
亜樹もこのままで済ます気はもちろんないだろう。
オーラスの、観る者をもっとも興奮させるヘッズアップの攻防が、
これからも私たちを、楽しませてくれることと思う。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki